私が、自分の髪の異変に、はっきりと気づいたのは、第二子を出産してから、半年ほどが経った頃でした。長男の時には、あれほどひどかった「産後脱毛」も、今回はそれほどでもなく、「歳をとると、体質も変わるのかしら」などと、のんきに構えていました。しかし、本当の異変は、もっと静かに、そして深刻に、進行していたのです。ある日、洗面台の鏡の前で、髪をかき上げた瞬間、私は、自分の目を疑いました。頭頂部の、いつも同じ場所で分けている「分け目」が、以前よりも、明らかに「白い線」として、くっきりと目立っている。まるで、そこに、一本の道ができてしまったかのように、地肌が、はっきりと見えているのです。私は、慌てて、スマートフォンのカメラで、自分の頭頂部を撮影してみました。そこに映し出されていたのは、分け目を中心に、まるでクリスマスツリーの模様のように、地肌が透けて見えている、衝撃的な光景でした。ショックでした。産後脱毛のような、一時的なものではない。これは、もっと根深い、何か別の問題なのではないか。それから、私の苦悩の日々が始まりました。外出する時は、帽子が手放せなくなり、人との会話中も、相手の視線が、自分の頭頂部に注がれているような気がして、落ち着きません。育児のストレス、寝不足、そして、自分の見た目への自信の喪失。すべてが、悪循環に陥っているようでした。私は、意を決して、女性の薄毛を専門とするクリニックの門を叩きました。医師の診断は、「FAGA(女性男性型脱毛症)」でした。加齢と、出産によるホルモンバランスの乱れが、引き金になったのだろう、と。しかし、医師は、こうも言ってくれました。「大丈夫ですよ。女性の薄毛は、正しい治療と、生活習慣の見直しで、改善する可能性が十分にありますから」。その言葉に、私は、暗闇の中に、一筋の光を見たような気がしました。
私の髪が悲鳴を上げた日