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フィナステリドとデュタステリドの効果の違い
AGA治療における二大内服薬、「フィナステリド(プロペシア)」と「デュタステリド(ザガーロ)」。この二つの薬は、どちらも5αリダクターゼの働きを阻害するという点では同じですが、その作用の仕方に、決定的な違いがあります。そして、その違いこそが、両者の効果の差を生み出しているのです。その鍵を握るのが、前述した「1型」と「2型」の5αリダクターゼです。まず、AGA治療のスタンダードとして、長年にわたり使用されてきた「フィナステリド」は、「2型5αリダクターゼ」の働きを、選択的に阻害する薬です。AGAの主な原因である、前頭部と頭頂部の毛乳頭に多く存在する2型酵素の活動をブロックすることで、脱毛ホルモンDHTの生成を抑制し、薄毛の進行を食い止めます。しかし、フィナステリドは、皮脂腺に多く存在する「1型5αリダクターゼ」に対しては、ほとんど影響を与えません。一方、より新しい治療薬である「デュタステリド」は、フィナステリドとは異なり、「1型と2型の両方の5αリダクターゼ」を、同時に、そして強力に阻害する作用を持っています。これにより、デュタステリドは、フィナステリドに比べて、血中のDHT濃度を、より大幅に、そして強力に低下させることができるのです。臨床試験のデータにおいても、デュタステリドは、フィナステリドに比べて、発毛効果(毛髪数の増加量や、毛の太さの改善度)が、約1.6倍高いという結果が報告されています。そのため、デュタステリドは、フィナステリドで十分な効果が得られなかった場合の「次の選択肢」として、あるいは、より積極的な発毛効果を求める場合に、処方されることが多いです。ただし、効果が高い分、副作用(性機能障害など)のリスクも、フィナステリドよりわずかに高まる可能性が指摘されています。
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私のAGA治療、フィナステリドからザガーロへ
私が、AGA治療のためにクリニックの門を叩いたのは、30代の終わりのことでした。生え際の後退は、もはや見て見ぬふりができないレベルまで進行していました。医師の診断のもと、最初に処方されたのは、最も標準的な治療薬である「プロペシア(フィナステリド)」でした。飲み始めて3ヶ月ほどで、初期脱毛を乗り越え、抜け毛の量が明らかに減ってきたのを実感しました。半年が過ぎる頃には、生え際に産毛が生え始め、薄毛の進行が、確かに食い止められているという手応えを感じていました。私は、その効果に満足し、その後も、約2年間にわたって、フィナステリドの服用を続けました。しかし、2年が経過したあたりから、私の心の中に、ある種の「停滞感」が生まれ始めました。確かに、抜け毛は減り、現状を維持できてはいる。しかし、そこから先、髪がさらに増えたり、太くなったりするという、劇的な改善は見られない。むしろ、少しずつ、また後退しているような気さえする。私は、現状維持ではなく、もっと積極的な「改善」を望んでいました。その想いを、かかりつけの医師に相談したところ、提案されたのが、「ザガーロ(デュタステリド)」への切り替えでした。医師は、1型と2型の5αリダクターゼの違いと、デュタステリドが両方を阻害することで、より強力な効果が期待できることを、丁寧に説明してくれました。副作用のリスクも少し上がるとのことでしたが、私は、改善への期待を込めて、切り替えを決断しました。ザガーロを飲み始めて、3ヶ月が経った頃。私は、明らかな違いを感じ始めました。フィナステリドの時にも生えていた産毛が、明らかに、より黒く、そして太く、力強くなっているのです。そして、半年が過ぎる頃には、これまで地肌が透けて見えていた生え際の密度が、明らかに増していました。美容師さんからも、「髪、しっかりしてきましたね」と言われるようになったのです。もちろん、これは、あくまで私個人の体験です。しかし、フィナステリドで効果が頭打ちになったと感じていた私にとって、デュタステリドは、まさに「次の一手」として、確かな希望を与えてくれました。
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1型・2型の違いと遺伝的要因
AGAの発症には、遺伝的な要因が深く関わっていることが知られています。そして、この遺伝的要因は、1型および2型5αリダクターゼの「活性の高さ」や、男性ホルモン「受容体の感受性」に、直接的な影響を与えています。つまり、あなたの薄毛が、どのようなパターンで進行するかは、ある程度、生まれ持った遺伝子によって、プログラムされている可能性があるのです。5αリダクターゼの活性は、人によって個人差が非常に大きいことが分かっています。父親や、母方の祖父が、典型的なM字型やO字型の薄毛であった場合、その子供や孫もまた、「2型5αリダクターゼ」の活性が、遺伝的に高い体質を受け継いでいる可能性が高いと考えられます。このような方は、若いうちから、前頭部や頭頂部の薄毛が進行しやすい傾向にあります。一方で、特に頭皮の皮脂が多く、顔も脂性肌である、といった体質の方。あるいは、家族に、特定の部位だけでなく、全体的に髪が薄くなるタイプの薄毛の人がいる場合。その方は、「1型5αリダ-クターゼ」の活性が、遺伝的に高い可能性があります。1型酵素は、皮脂腺に多く存在するため、その活性が高いと、皮脂の過剰分泌に繋がりやすいのです。さらに、AGAの発症には、もう一つの重要な遺伝的要因、「男性ホルモン受容体の感受性」が関わっています。たとえ、DHTの生成量が多くても、それを受け取る側の「受容体」の感度が低ければ、脱毛のシグナルは伝わりにくく、薄毛は進行しにくいです。逆に、DHTの生成量がそれほど多くなくても、受容体の感受性が非常に高ければ、わずかなDHTにも過敏に反応し、薄毛が急速に進行してしまいます。この受容体の感受性は、主に母親から受け継がれるX染色体上の遺伝子によって決まるとされています。このように、AGAの発症は、1型・2型5αリダクターゼの活性と、受容体の感受性という、複数の遺伝的なカードの組み合わせによって、その運命が大きく左右されます。しかし、悲観する必要はありません。現代のAGA治療は、これらの遺伝的な要因に、科学的に対抗するための、強力な武器を持っているのです。
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2型5αリダクターゼとAGAの直接的な関係
AGAの進行に、より直接的かつ深刻に関与していると考えられているのが、「2型5αリダクターゼ」です。なぜなら、この2型酵素は、AGAが発症する特定の部位に、集中的に存在しているからです。2型5αリダクターゼは、主に、男性の前立腺や、精嚢、そして、頭皮の「毛乳頭細胞」に多く分布しています。特に、頭皮の中でも、額の生え際(前頭部)と、頭頂部の毛乳頭細胞に、その活性が高いことが、研究によって明らかになっています。これは、AGAの典型的な薄毛パターンである「M字型」や「O字型」が、なぜその部位から進行するのかを、科学的に説明する、非常に重要な知見です。毛乳頭細胞は、髪の毛の成長をコントロールする、いわば「司令塔」の役割を担っています。この司令塔に存在する2型5αリダクターゼが、血流に乗って運ばれてきたテストステロンを、強力な脱毛ホルモンであるDHTへと変換します。そして、生成されたDHTが、毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合すると、「髪の成長を止めよ」という、誤った脱毛シグナルが発信されてしまうのです。このシグナルを受け取った毛母細胞は、髪の成長期を短縮させ、髪が太く、長く成長する前に、細く、短いまま抜け落ちてしまいます。このヘアサイクルの乱れが、AGAによる薄毛の正体です。つまり、2型5αリダクターゼは、まさにAGAの“震源地”で活動する、主要な実行犯と言えるのです。そのため、AGA治療の第一選択薬として広く用いられている「フィナステリド(プロペシア)」は、この2型5αリダクターゼの働きを、選択的に、そして強力に阻害することに特化して開発されました。
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1型5αリダクターゼの意外な役割
AGAの主犯格が2型5αリダクターゼであるならば、「1型5αリダクターゼ」は、一体どのような働きをしているのでしょうか。1型酵素は、AGAとの直接的な関連性は2型ほど強くはないものの、頭皮環境全体に影響を及ぼす、無視できない存在です。1型5αリダクターゼは、2型酵素が特定の部位に局在しているのとは対照的に、全身の「皮脂腺」に、広く分布しているのが最大の特徴です。もちろん、頭皮の皮脂腺にも、豊富に存在しています。そして、この皮脂腺において、テストステロンをDHTへと変換し、皮脂の分泌を促進する働きを担っています。つまり、1型5αリダクターゼの活性が高い人は、頭皮が脂っぽくなりやすい、いわゆる「脂性肌」の傾向が強くなります。過剰に分泌された皮脂は、頭皮の毛穴を詰まらせたり、酸化して炎症を引き起こしたりする原因となります。これにより、頭皮環境が悪化し、フケやかゆみ、あるいは、抜け毛が増加する「脂漏(しろう)性脱毛症」を引き起こす可能性があります。AGAとは直接的なメカニズムは異なりますが、この頭皮環境の悪化が、AGAの進行を、間接的に助長してしまう可能性は、十分に考えられます。健康な髪が育つための土壌である頭皮が、常に脂っぽく、炎症を起こしている状態では、発毛も阻害されてしまうからです。また、近年の研究では、1型5αリダクターゼも、前頭部や頭頂部だけでなく、後頭部を含めた、頭皮全体に分布していることが分かってきており、AGAの進行に、これまで考えられていた以上に関与しているのではないか、という可能性も指摘され始めています。
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1型と2型、どちらを抑えるべきか
AGA治療において、フィナステリドが阻害する「2型」と、デュタステリドが阻害する「1型と2型の両方」。一体、どちらの酵素を抑制することが、より効果的なのでしょうか。この問いに対する答えは、個々の薄毛の症状や、体質によって異なってきます。まず、AGAの典型的な症状である、生え際の後退(M字型)や、頭頂部の薄毛(O字型)が主な悩みである場合、その直接的な原因は、前頭部と頭頂部に集中する「2型5αリダクターゼ」の働きによるものである可能性が非常に高いです。そのため、まずは、この2型酵素を選択的にブロックする「フィナステリド」から治療を開始するのが、最もスタンダードで、理にかなったアプローチと言えるでしょう。副作用のリスクも比較的低く、多くの症例で、薄毛の進行抑制効果が認められています。しかし、中には、フィナステリドを半年以上継続しても、なかなか効果が実感できない、という方もいます。その場合、考えられる可能性の一つが、その人の体質として、「1型5αリダクターゼ」の活性も、薄毛の進行に、比較的強く関与している、というケースです。特に、頭皮全体の皮脂が多く、脂漏性の傾向が強い方や、生え際や頭頂部だけでなく、頭部全体の髪が、なんとなく薄くなってきたように感じる方は、1型酵素の影響も受けている可能性があります。このような場合に、1型と2型の両方を強力に阻害する「デュタステリド」への切り替えを検討する価値が出てきます。デュタステリドは、フィナステリドがカバーしきれなかった、1型酵素由来のDHT生成もブロックするため、より包括的で、強力な効果が期待できるのです。ただし、前述の通り、効果の高さと副作用のリスクは、トレードオフの関係にあります。どちらの薬を選択するかは、自己判断で行うのではなく、必ず、AGA専門のクリニックで、医師による正確な診断と、カウンセリングを受けた上で、自分の症状と、ライフプランに合った、最適な治療法を、共に決定していくことが重要です。
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ある男の後悔!個人輸入から国内処方へ切り替えた理由
鈴木さん(35歳・仮名)は、30歳を過ぎた頃から薄毛が気になり始め、AGA治療を決意しました。しかし、毎月の治療費がネックとなり、インターネットで見つけた個人輸入に手を出しました。国内処方の半額以下で手に入るジェネリック薬は、彼にとって非常に魅力的に映ったのです。「最初は順調でした。抜け毛が減ったような気もして、これで安く治療が続けられると喜んでいたんです」と彼は語ります。しかし、服用開始から3ヶ月が過ぎた頃、彼は体に異変を感じ始めました。時折、胸が締め付けられるような動悸がし、軽いめまいを感じるようになったのです。AGA治療薬の副作用として動悸が報告されていることは知っていましたが、彼には相談できる相手がいませんでした。「この症状は本当に薬のせいなのか?だとしたら服用を続けるべきか、やめるべきか?ネットで調べれば調べるほど、情報が錯綜していてパニックになりました」。誰にも相談できない孤独と、自分の体に何が起きているのか分からない不安。そのストレスは、薄毛の悩み以上に彼を苦しめました。ついに彼は意を決して、AGA専門クリニックのドアを叩きました。医師に個人輸入薬を服用していたことを正直に話すと、すぐに服用を中止し、血液検査を行うよう指示されました。幸い、検査結果に深刻な異常は見つかりませんでしたが、医師からは個人輸入のリスクについて厳しく諭されました。「先生から『その薬が本物だという保証も、安全だという保証もないんですよ』と言われた時、自分がどれだけ危険な橋を渡っていたのかを思い知りました」。現在、鈴木さんはクリニックで正規に処方された薬で治療を続けています。費用は以前よりかかりますが、定期的な診察で健康状態をチェックしてもらえ、いつでも相談できる医師がいるという安心感は、何物にも代えがたいと彼は言います。「目先の安さに目がくらんで、一番大切な健康を蔑ろにするところでした。あの時、勇気を出してクリニックに行って本当に良かったです」。
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あるパーソナルトレーナーのAGAとの向き合い方
佐藤さん(38歳・仮名)は、都内で人気のパーソナルトレーナーだ。鍛え上げられた肉体と爽やかな笑顔が彼のトレードマークだが、その裏で彼は長年、人知れずAGAと戦ってきた。彼の職業において、若々しく健康的な外見は、顧客からの信頼を得るための重要な要素の一つだ。「20代後半から生え際が気になり始め、30代に入ると頭頂部もかなり目立つようになりました。正直、焦りましたね。クライアントの前に立つのが怖くなった時期もありました」と彼は振り返る。鏡に映る自分の姿に自信を失いかけた時、彼は二つの決断をした。一つはAGA専門クリニックでの治療を開始すること。もう一つは、自身のトレーニング理論と栄養学の知識を、AGA対策に徹底的に応用することだった。「筋トレがテストステロンを増やすからハゲる、という噂は、トレーナー仲間でもよく話題になります。でも、僕は体の仕組みを勉強していたから、それが短絡的な考えだと分かっていました。問題はDHT。そして、血行や栄養、ストレスといった生活習慣全般が髪に大きく影響することも」。彼は、自身の食事管理をより厳格にした。高タンパク・低脂質はもちろんのこと、髪に良いとされる亜鉛やビタミンを豊富に含む食材を積極的に取り入れた。トレーニングも、闇雲に追い込むのではなく、成長ホルモンの分泌を最大化し、かつストレスホルモンを抑制するような、質の高いメニューを組んだ。そして何より、十分な睡眠を確保した。治療と並行して、こうした生活改善を続けた結果、彼の髪の状態は少しずつ改善していった。今では、薄毛の悩みを打ち明ける男性クライアントに対し、自身の経験を基に、トレーニングだけでなく、食事や生活習慣のアドバイスも行っている。「AGAと向き合ったことで、僕はトレーナーとして、より深く人の健康について考えられるようになりました。この経験は、僕にとって大きな財産です」と彼は笑顔で語った。
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筋トレでテストステロンが増えるとAGAは悪化するのか
筋トレに励む男性の間で、まことしやかに囁かれる一つの噂があります。それは、「筋トレをするとテストステロンが増加し、その結果AGAが進行してしまう」というものです。確かに、筋力トレーニング、特に高強度のウェイトトレーニングを行うと、男性ホルモンであるテストステロンの分泌が一時的に促進されることは、多くの研究で示されている事実です。そして、AGAが男性ホルモンに起因する脱毛症であることもまた事実です。この二つの事実だけを繋ぎ合わせると、筋トレが薄毛を悪化させるという結論に至ってしまうのも無理はないかもしれません。しかし、この説はAGAのメカニズムの核心部分を見過ごした、あまりにも短絡的な解釈と言わざるを得ません。AGAの直接的な原因となるのは、テストステロンそのものではなく、テストステロンが「5αリダクターゼ」という酵素の働きによって変換された、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」です。つまり、薄毛の進行度を左右するのは、テストステロンの量そのものよりも、5αリダクターゼの活性度や、DHTを受け取るアンドロゲンレセプターの感受性といった、遺伝的に決まる要素の方がはるかに大きいのです。筋トレによってテストステロンが一時的に増加したとしても、それがすべてDHTに変換されるわけではありません。むしろ、筋トレによって得られる多くのメリットを考慮すれば、この噂を過度に恐れてトレーニングを避けることは、非常にもったいない選択だと言えるでしょう。大切なのは、テストステロンという言葉の響きに惑わされることなく、AGAの正確な仕組みを理解し、噂の真偽を冷静に見極めることです。
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偽物を見抜けるか?素人判断の危険な賭け
個人輸入を検討する人の中には、「自分でしっかり調べれば、偽物くらい見分けられる」と考える人もいるかもしれません。インターネット上には、偽造薬の見分け方として、パッケージの印刷のズレ、錠剤の色や形、刻印の違いといった情報が出回っています。しかし、結論から言えば、素人が本物と偽物を確実に見分けることは、限りなく不可能です。その理由は、偽造薬の製造技術が年々、驚くほど巧妙化しているからです。一昔前の粗悪な偽物であれば、パッケージや錠剤を見れば明らかに異変に気づくこともあったかもしれません。しかし、現在市場に出回っている精巧な偽造薬、通称「スーパーコピー」は、正規品と寸分違わぬパッケージやボトル、錠剤の見た目をしています。専門家でさえ、見た目だけで判断するのは困難なレベルです。本物か偽物かを確実に判定するためには、専門の分析機関で成分鑑定を行う以外に方法はありません。当然、個人がその都度、数万円もする成分鑑定を依頼するのは現実的ではありません。つまり、個人輸入で薬を手に入れるという行為は、毎回、中身が分からない薬を飲むという危険な賭けをしているのと同じなのです。あなたが「これは本物だろう」と信じて飲んでいるその錠剤は、ただのデンプンの塊かもしれませんし、未知の有害物質が混入している可能性もゼロではないのです。「いつも利用している信頼できるサイトだから大丈夫」という思い込みも危険です。悪質な業者は、最初は本物を送って信用させ、途中から偽物を混ぜ込むという手口を使うこともあります。見た目で真贋を見極めようとする試みは、もはや意味を成しません。自分の健康を、そんな不確かな自己判断に委ねることのリスクを、今一度冷静に考えるべきです。