AGAの進行に、より直接的かつ深刻に関与していると考えられているのが、「2型5αリダクターゼ」です。なぜなら、この2型酵素は、AGAが発症する特定の部位に、集中的に存在しているからです。2型5αリダクターゼは、主に、男性の前立腺や、精嚢、そして、頭皮の「毛乳頭細胞」に多く分布しています。特に、頭皮の中でも、額の生え際(前頭部)と、頭頂部の毛乳頭細胞に、その活性が高いことが、研究によって明らかになっています。これは、AGAの典型的な薄毛パターンである「M字型」や「O字型」が、なぜその部位から進行するのかを、科学的に説明する、非常に重要な知見です。毛乳頭細胞は、髪の毛の成長をコントロールする、いわば「司令塔」の役割を担っています。この司令塔に存在する2型5αリダクターゼが、血流に乗って運ばれてきたテストステロンを、強力な脱毛ホルモンであるDHTへと変換します。そして、生成されたDHTが、毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合すると、「髪の成長を止めよ」という、誤った脱毛シグナルが発信されてしまうのです。このシグナルを受け取った毛母細胞は、髪の成長期を短縮させ、髪が太く、長く成長する前に、細く、短いまま抜け落ちてしまいます。このヘアサイクルの乱れが、AGAによる薄毛の正体です。つまり、2型5αリダクターゼは、まさにAGAの“震源地”で活動する、主要な実行犯と言えるのです。そのため、AGA治療の第一選択薬として広く用いられている「フィナステリド(プロペシア)」は、この2型5αリダクターゼの働きを、選択的に、そして強力に阻害することに特化して開発されました。