AGAのメカニズムを語る上で、絶対に避けて通れない主役級の存在が「ジヒドロテストステロン」、通称DHTです。このDHTが、いかにして体内で生成されるのか、そのプロセスを詳しく見ていきましょう。私たちの体内、特に男性の体内では、精巣や副腎で「テストステロン」という男性ホルモンが作られています。テストステロンは、筋肉や骨格の発達、性機能の維持など、男性らしい身体つきを形成するために不可欠な重要なホルモンです。通常の状態では、このテストステロンが直接的に薄毛を引き起こすことはありません。問題は、このテストステロンが特定の酵素と出会うことで始まります。その酵素の名は「5αリダクターゼ(ゴアルファリダクターゼ)」です。この5αリダクターゼは、主に前立腺や頭皮の皮脂腺、そして毛乳頭細胞などに存在しています。血流に乗って運ばれてきたテストステロンが、これらの場所に存在する5αリダクターゼと結合すると、化学変化が起こり、テストステロンはより強力な作用を持つDHTへと変換されてしまうのです。この変換プロセスは、鍵と鍵穴の関係に例えることができます。テストステロンという「鍵」が、5αリダクターゼという「特殊な鍵穴」にはまることで、DHTという「別の形の鍵」に作り替えられてしまうイメージです。重要なのは、DHTはテストステロンに比べて、男性ホルモンとしての活性が5倍から10倍も強力であるという点です。この強力な作用を持つDHTが、薄毛を引き起こす元凶となります。AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリドは、まさにこの5αリダクターゼの働きを阻害することで、DHTの生成そのものを抑制し、AGAの進行にブレーキをかけるという仕組みに基づいているのです。