三十歳を過ぎてから、シャワーの排水溝に溜まる髪の量が明らかに増えた。鏡で見る生え際は、気のせいだと思いたいレベルをとうに超えて後退していた。僕は意を決してAGAクリニックの門を叩き、フィナステリドの服用を開始した。時を同じくして、たるんだ体に鞭を打つべく、週に三回のジム通いも始めた。最初は不安だった。「筋トレで男性ホルモンが増えて、薬の効果が打ち消されるんじゃないか?」そんなネットの噂が頭をよぎったからだ。しかし、医師に相談すると「適度な運動はむしろ推奨します。血行も良くなりますから」と背中を押された。その言葉を信じ、僕は治療とトレーニングの両立生活をスタートさせた。最初の数ヶ月は、目に見える変化は少なかった。薬による初期脱毛も経験し、鏡を見るたびに不安になった。しかし、トレーニングを続けることで、体つきは確実に変わっていった。筋肉がつき、体力が向上するにつれて、自分に自信が持てるようになった。不思議なことに、体への自信は、髪への過剰な不安を和らげてくれた。半年が過ぎた頃、変化は訪れた。抜け毛が明らかに減り、髪にコシが出てきたのだ。美容師からも「髪、しっかりしてきましたね」と言われた。筋トレで汗を流し、プロテインとバランスの取れた食事を心がけ、ぐっすり眠る。この健康的な生活サイクルが、薬の効果を後押ししてくれているような気がした。一年が経った今、髪の状態は治療開始前とは比べ物にならないほど改善した。そして、僕の手には、髪だけでなく、引き締まった体と、何事にも前向きに取り組める自信が残っていた。AGAと筋トレは敵同士ではなかった。僕にとって、それらは失いかけた自信を取り戻すための、最強のタッグだったのだ。