私たちの髪の毛は、無限に伸び続けるわけではなく、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しており、これをヘアサイクル(毛周期)と呼びます。健康な髪の毛の場合、このサイクルの大部分を占めるのが成長期です。成長期は通常2年から6年ほど続き、この間に髪は太く長く成長します。やがて成長期が終わると、数週間程度の退行期に入ります。退行期では、毛乳頭からの栄養供給が止まり、毛母細胞の分裂が停止します。そして最後に、数ヶ月間の休止期を迎え、髪は完全に成長を止め、ブラッシングやシャンプーなどのわずかな刺激で自然に抜け落ちていきます。そして休止期が終わると、毛根は再び活動を始め、新しい髪が生まれて新たな成長期がスタートします。このサイクルが正常に機能している限り、全体の毛髪の本数はほぼ一定に保たれます。しかし、AGAの仕組みはこの正常なヘアサイクルを根底から狂わせてしまいます。AGAの元凶であるDHTが脱毛シグナルを出すと、最も大きな影響を受けるのが、この成長期です。本来であれば数年間続くはずの成長期が、わずか数ヶ月から1年という極端に短い期間で強制的に終了させられてしまうのです。これにより、髪は十分に太く長く成長する時間を与えられず、細く短い「軟毛」のまま抜け落ちてしまいます。さらに、成長期が短くなる分、全体のヘアサイクルに占める休止期の毛髪の割合が増加します。成長しきらないうちに抜ける髪が増え、次に生えてくるまでの準備期間にある毛根が増えるため、全体として髪のボリュームが減少し、地肌が目立つようになるのです。これが、AGAによって薄毛が進行していく仕組みの正体です。