薄毛の悩みを持つと、「頭皮の皮脂が多いからだ」「毛穴が詰まっているから髪が生えてこないんだ」といった俗説に惑わされがちです。そして、高価なスカルプシャンプーで一日に何度も髪を洗ったり、毛穴の汚れを落とすと謳うヘッドスパに通ったりする方も少なくありません。しかし、AGAの科学的な仕組みを理解すれば、これらの俗説が直接的な原因ではないことが分かります。確かに、過剰な皮脂は頭皮の常在菌を繁殖させ、脂漏性皮膚炎などの頭皮トラブルを引き起こす可能性があります。頭皮環境が悪化すれば、髪の健やかな成長を妨げる一因にはなり得ますが、それ自体がAGAを発症させたり、進行させたりする根本原因ではありません。AGAの仕組みは、あくまで体内で起こるホルモンと酵素、そして遺伝的な感受性の問題です。DHTが毛根に作用し、ヘアサイクルを乱すという内部的なメカニズムが本質であり、頭皮の表面で起こっている皮脂の分泌量や毛穴の詰まりは、その結果として起こる二次的な現象か、あるいは全く別の問題なのです。例えば、AGAを引き起こすDHTは、皮脂腺の活動を活発化させる作用も持っています。そのため、AGAが進行している人は、結果的に頭皮の皮脂分泌が多くなる傾向があるのです。これは「皮脂が多いから薄毛になる」のではなく、「薄毛の仕組みが働いているから皮脂も多くなる」という因果関係の逆転です。毛穴の詰まりについても同様で、産毛のような細い毛が皮脂と混ざって詰まっているように見えることはあっても、毛穴が詰まったから太い髪が生えてこられない、ということはありません。髪の毛には、毛穴の詰まりを押し出すだけの力があります。頭皮を清潔に保つことは大切ですが、AGAの本当の敵は、頭皮の表面ではなく、体の中にいることを正しく認識する必要があります。