私が抜け毛に対する恐怖心に取り憑かれ毎朝起きた瞬間に枕元に散らばっている自分の髪の毛を一本一本拾い集めてはその数を数えるという少し常軌を逸した行動を始めたのは仕事のストレスがピークに達していた昨年の冬のことでしたが最初の数日間は朝起きるたびに枕カバーの上に黒々とした毛が十本二十本と散乱している光景を目にするだけで心臓が早鐘を打ち一日中そのことが頭から離れず仕事も手につかないような陰鬱な精神状態に陥っていました。ある日インターネットの掲示板で枕元の抜け毛は寝ている間の摩擦で自然に抜けるものであり一日百本程度なら正常範囲内であるという書き込みを目にしましたが疑心暗鬼になっていた私は自分のケースが本当に正常なのかを確かめるために徹底的な記録をつけることを決意しその日から毎朝ピンセットを使って枕元だけでなくシーツや布団カバーの隙間に至るまで徹底的に抜け毛を回収し白い紙の上に並べて本数を数えさらにその太さや長さをルーペで観察してノートに詳細に記録するという儀式のような三十日間を過ごすことになりました。記録をつけ始めて最初の一週間は平均して十五本から二十五本程度の抜け毛が見つかり中には短く細い毛も混じっていたためやはり自分は進行性の脱毛症なのではないかという不安が拭えませんでしたが二週間目に入ると日によって五本程度しか抜けていない日もあれば三十本近く抜けている日もあることに気づきその変動が前日の睡眠時間や飲酒の有無そして仕事でのストレス度合いと微妙にリンクしているような傾向が見えてきました。特に興味深かったのは週末にゆっくりと休息を取りリラックスして眠れた翌朝は抜け毛の本数が明らかに少なく逆に徹夜明けで泥のように眠った翌朝は枕との摩擦が多かったせいか抜け毛が増えているという事実であり抜け毛の数は決して一定ではなく生活のリズムや睡眠の質によって日々ダイナミックに変動しているということを身をもって体験しました。三十日間の観察を終える頃には一ヶ月の平均本数は約十八本という結果になりこれは睡眠時間が一日の三分の一であることを考慮すれば一日の総抜け毛数としては六十本程度と推測され医学的にも全く正常な範囲内であるという結論に達することができました。この過酷とも言える抜け毛チェックの日々を通じて私が得た最大の収穫は抜け毛という現象を単なる恐怖の対象としてではなく自分の身体からのメッセージとして冷静に受け止めるメンタリティであり毎朝の抜け毛の数に一喜一憂するのではなく今日は少し疲れているから早めに休もうとか昨日は飲みすぎたから今日は食事に気をつけようといった具合に健康管理のバロメーターとして活用する余裕が生まれたことです。今ではもう毎朝髪の毛を数えるようなことはしていませんが時折枕元を見て抜け毛が増えていると感じた時には身体が休息を求めているサインだと捉えて自分を労るきっかけにしています。
枕元の毛を数え続けた私の三十日