日々の診療において薄毛の悩みを訴えて来院される患者さんは非常に多いのですがその中で保険診療が適用できるケースと自費診療となってしまうケースの線引きについて正確に理解されている方は意外と少なく診察室で保険が効かないと伝えると驚かれることも珍しくありません。我々皮膚科医が脱毛症の患者さんを診察する際にまず注目するのは脱毛のパターンと頭皮の状態であり全体的に薄くなっているのか部分的に抜けているのか頭皮に赤みやフケがあるかといった所見から原因を鑑別していきます。保険が適用される代表的な疾患は円形脱毛症でありこれは自己免疫反応による毛包の破壊が原因であるため病的脱毛として扱われステロイド剤や免疫調整剤などを用いた治療が行われます。また脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎などの湿疹病変に伴う脱毛やトリコチロマニアと呼ばれる抜毛症そして甲状腺疾患や膠原病貧血などの全身疾患に伴う脱毛も保険診療の対象となります。一方で最も頻度が高い男性型脱毛症や女性のびまん性脱毛症は加齢やホルモンバランスの変化遺伝的素因による生理的な現象とみなされるため現行の医療制度では病気としての治療対象から外れ健康保険の給付対象外となります。この判断基準は非常に明確であり医師の裁量でAGAを保険診療にすることは法律で禁止されている混合診療の禁止の観点からも厳格に運用されています。ただし患者さん自身がAGAだと思っていても実際に診察してみると慢性的な休止期脱毛症であったり潜在的な甲状腺機能低下症が見つかったりすることもあるため自己診断で諦めずに一度は皮膚科専門医の診察を受けることが重要です。特に女性の場合は過度なダイエットや鉄欠乏性貧血が原因で髪が薄くなっていることも多くこの場合は貧血の治療を行うことで脱毛が改善することがあり当然その治療には保険が適用されます。つまり皮膚科における薄毛治療の入り口はまずそれが病気によるものなのかどうかを医学的に診断することにありその結果として保険適用の可否が決まるというプロセスを経ることを理解していただければと思います。
皮膚科医が教える抜け毛の原因と保険が使える治療の判断基準